第二の故郷
「アンタ、あっちの世界でオンナ出来たでしょ。」
いつもの会議から帰ると、姉さんの詮索が始まった。
「・・・なんだよ、姉さん。」
「匂うのよねぇ。なんか。」
ニヤリとしたり顔。こういう時は何でそううれしそうなんだか。もう慣れてるけど。
「・・・何かやらしいね。女抱いた後シャワーくらいは浴びてるつもりだけど。」
「そーゆー意味じゃないわよぉ。雰囲気っていうかね・・・なんか益々人間くさいのよねぇ、アンタ。
でも確かに匂いといえば、シャンプーかしらぁ?帰ってきた時、銘柄を替えたにしちゃ変だと思ったから。」
「ああ、どっかの女が持ち込んだやつ、こないだ切れた時に使っただけさ。」
相手は不特定かのごとくうそぶく。
「まぁアンタももう子供じゃないんだし、別にいいケドぉ。
ただあんまり虹の園の女に深入りするんじゃないわよ。別れる時面倒だから。」
「わかってるさ。正体怪しまれりゃ普通縁が切れるよ。女なんてどこの世界も変わらないって言いたいんだろ?
たいてい詮索好きでさ、・・・姉さんのようにね。おやすみ。」
嫌味をかわしつつ自分の部屋に戻る。薄々感づいてはいるんだろう。
姉さんなりに心配してくれているのはわかっているが、言えるわけなどない。
まるで新婚夫婦さながらにほのかさんとスーパーで生活雑貨を選んでいます、などと。
シャンプーもその時彼女が選んだもので、自宅で使っているのと同じらしい。香りの変化を家人に悟られない様するためだが、帰
る時は彼女に僕の香りをうつさぬ様、僕もちょっと気を使っている、だなんて。
今、ドツクゾーンは激動の最中にある。虹の園で言うところの中世ヨーロッパみたいなものか。
人の意識が変わり、産業が変わり・・・。ジャアクキング支配下の軍国主義をひきずる輩からは不満の声も上がっている。こんな混乱する世の中なら、いっそ専制君主が居た方が良い・・・と、短絡的に走る者達。
確かに「鼓腹撃壌」という虹の園の故事を知らないわけじゃない。
実際、イルクーボならば一人で皆を導いていく力もあるだろう。だからこそ今国内の内乱が小競り合い程度ですんでいるというのもある。でもイルクーボとて永遠の存在ではない。もし彼がそれを欲せば、ジャアクキングと同じ道をたどるだろう。それが僕ら元幹部の考えだ。
僕らは虹の園と、プリキュアと出会って別の道を選んだんだ。
次世代につながっていく組織作りをしよう、そう提案したのは僕のはずだ。
いずれは誰かにこの役割を引き継ぐことになったとしても、今僕が抜けるわけにはいかない。
戦いを強制されていた昔と違って、自分の意思で仲間とこれまで信頼しあってやってきたんだ。
彼女とのことを姉さんに告げるのにふさわしい時期ではない。
わかってはいるんだ。
でも、平和な小康状態の時につい考えるのは、「早く虹の園に帰りたい」ということ。
彼女のそばに。
───そうか、香りが一緒か。
彼女と重ね合わせるものが増える度に、絆が深まっていく。
もう半年になるんだな・・・。大学の近くにアパートを替え、授業の空き時間が長ければ彼女を連れ込んで、その・・・つい、勢い授業までサボらせてしまう今の自分が信じがたい。
(文句を言われるけど、自宅生の彼女に度々の泊まりはきついし)
「もし本当に2人で住むとしたら、こっちかしら?あっち(ドツクゾーン)かしら?ふふっ。
私はキリヤ君がいればどの世界でも頑張れるけど・・・。」
前向きな(強がりともいうべき)彼女の話を聞きながら、いつしか同じ夢を見ている。
でもドツクゾーンに彼女を連れてくるとしたら、まずはこの世界を何とかしなければならない。
お嬢さん育ちである彼女に、食料すら乏しいこの世界への順応は厳しいだろう。
しかしとても一筋縄ではいかない改革に、彼女とのことも併せて悲観的になりそうな。
何年経っても煮え切らない僕に彼女が恋の終わりを宣告する日だって来るのかもしれない。
自分の世界の男と彼女は幸せに、そして僕は・・・そうなっても多分、彼女を忘れられずに。
!
ああ、馬鹿だ。
そもそも半年前までは彼女が他の男とくっつくのを黙って見ている気ではなかったのか?
そのほうが彼女も幸せだと思ってた。
彼女に否定されるまでは。
お互いずっと封じてきた心が開放された、あの満ち足りた時。
「・・・僕個人の幸福と世界全体とのバランスか。」
一人一人が幸福を追求するのは悪いことではない。むしろそれが可能な世界にしたい。だからと言って幸せ独り占めではなく、その幸福を分ちあったり、時には譲歩したり・・・。僕と彼女がいつもそうであるように。
彼女は言う。
「まずはあなたのそばにいる人に思いやりを持って接すればいいんじゃないかしら?そうしてその人があなたのことを好きだと思えば、悪いことをしようと思わなくなるでしょ。つまりあなたがあなたの世界と、その世界の人々を“好きだ”と思えばいいのよ。」
理想主義だけど、確かにとも思う。僕はあなたを好きだと思った時から、あなたに攻撃が出来なくなった。つまり僕は身をもってそれを知っているってわけだ。
でもねほのかさん。もし僕がドツクゾーンの女性にやさしくしてその女性が僕のことを“好き”って言ったら。
それはそれできっと、すねるんだろうなぁ。
彼女は溜め込むタイプだからタチが悪い・・・。
そんなことを脱線気味に一人考えていたら。
寝れなくなったので顔洗って洗面台の鏡を覗くとふいに着替え中の彼女が映り、
一人で留守番ということが自宅の様子でわかる。
無意識でそんなことに魔力使って・・・覗き見したようでバツが悪い。
ノゾキやるくらいならいっそ堂々と・・・。
「ほのかさん。」
「!キリヤ君、どうやって・・・?」
彼女の口を軽くふさぐ。
「そこの鏡からだよ。ちょっと抜けてきた。」
抱きしめると同時につい手がすべったが、怒った彼女に制止される。ちぇ。
「・・・あっちも問題なさそうだから、大丈夫。だからホンのちょっとここに居させて。」
おあつらえ向きのダブルベッドに強引に押し倒して。
こうやって忍び込むのも悪くない。
リスクもあってか、つい言うことを聞かせたくなる。
「声、出しちゃダメだよ。」
「ねぇ、帰ってきてからで・・・。」
「黙って。愛してる・・・。」
戸惑いながらも、次第に心を一つにしていく彼女の変化が楽しい。
迷っても、こうやって受けとめてくれる人がいる。きっとこれからも迷うことはあるけれど、彼女の存在に励まされてなんとかやっていけるのだろう。
僕はもう、独りではないのだから。
※キリヤ君ドツクゾーン編。「食料すら乏しい」と書いたのは、日照時間が少なそうで作物も育ちにくそうだと思ったからです。ドツクの人は「食べれるけど、食べる必要がない(ドラマCD1)」そうですが、魔力の強い者なら色々別の方法で生気を吸い取れるのでしょう。彼らの生活環境からそうなったのかもしれません。
もし、この2人がカップルになるとしたら、色々な意地が取れて丸くなっていく「付き合って半年」の時期くらいが幸せの絶頂だよなぁ・・・と。普段ベタベタしなそうですし、それ以降はむしろ落ち着いちゃったりして(笑)。以上、恥ずかしい未発表の駄文でした。大学生編は派生ギャグ漫画も清書できれば単発で載せるつもりだったんですが、時間なさそう。→ザザッと漫画描きあげましたが内容が内容だけに拍手内封印中(笑)