−初恋−


<前編>

─☆─

あの日、彼は女子部校門の所に佇んでいた。真剣な表情で、誰も声を掛けられないような雰囲気で。
彼は“彼女”を待っている。そしてきっと「告白」するんだと、彼と彼女を知っている人は皆そう思ったに違いない。
私も自分の気持ちにけじめがつけられるし、彼が幸せになれるよう、祈ってた。だけど・・・。
次の週、彼が転校していったことを知ったの。
そしてうつむく彼女に視線が集まるのを、私はただ黙って見ていた・・・。

─☆─

「あ、すみません、今開けます。」
入り口に立つ男の子が一人。下級生・・・かしら?
その日はたまたま司書の先生がお休み。昼休みの貸し出し業務のため職員室から図書館の鍵をもらってくると、もう人が来ていた。
(昼休み開始とほぼ同時に来るなんて、男子だからお弁当食べるのきっと早いのね)
ふとそんなことを思う。
ベローネ学院の伝統ある図書館はとても大きく、また管理も大変なため普段は常駐の司書の先生が2人。そして図書委員が月2回当番もちまわりで貸し出し業務 を手伝う。校内でも数少ない男子部との接点なので図書委員になりたがる子も多いけど、実際は大変なので当番の代わりを押し付けられちゃうことも多い。そし てそんな時、断れない性格の自分が嫌になる。
“スッ”
もたもたしながら鍵を開けた私の脇を、しなやかにその男の子が通り過ぎる。一瞬、その横顔に見とれてしまった。
「きれいなコ」・・・男の子なのに、そう思ってしまった。いいなあ・・・なんて。
司書室でお弁当を食べながら図書館の中を見渡すと、その男の子が真剣な表情で本を次から次にめくってるのが見えた。
(借りる本を考え中なのね・・・)
そう思った。だけど、そのコは何十冊もの本をパラパラめくっただけで、結局その日は本を借りていかなかった。

“入澤キリヤ君”───皆が噂しているその男の子が、サッカー部で今有名になっている男の子と同一人物だとは知らなかったの。私はそういう情報うとい し・・・でも、なんか、全然スポーツマンって印象じゃなかったんだもの。頭が良さそうだな〜とは、思ったんだけれど。そういえばこないだの当番の時も、図 書館に来ていたっけ。でも、また本をめくっていただけ・・・。何でなんだろう?
ちょっと気になったので、当番じゃない日の昼休み、図書館に来てみた。
やっぱり、居る。
そして相変わらずパラパラパラパラ・・・。
思いきって近くまで行ってみる。・・・え!突然思いついた。そう、ただ本をめくっているんじゃない!ちゃんと読んでるんだ!「速読」って、初めて見た!!
頭いいのもうなずけるというか、すごいというか・・・。
放課後はサッカー部でも活躍しているっていうし、美形だし。恵まれている人って本当にいるのね。私なんか、頑張っても何でも中途半端だし、ピアノは小さい 頃からやっていたってだけで、コンクールで賞取れるほどの才能もないし・・・。
いいなあ、これだけ色んなこと出来たらきっと自分に自信もてるだろうになぁ・・・。
と、その時、彼が不意に顔を上げた。ちょっと睨まれてしまったみたい。ジロジロ見ていてゴメンなさい・・・そう心の中で謝りながら図書館を後にした。

それから貸し出し当番を押し付けられても、何となくはずんだ気分になれた。昼休み、彼はいつも図書館にいる。お昼ごはんはどうしてるの・・・?とか、友達 と遊ばないの・・・?とか色々聞きたいことがあったけど、彼の風情でなんとなく察することが出来た。
(友達・・・いないんだ)
と。
たぶん一緒にご飯を食べる友達も、遊ぶ人もまだいないんだろう。きっと転校したてで馴染めないのね・・・。ただでさえ近寄りがたいタイプだから、クラスで 浮いちゃっている姿が想像つく。
だって、私のクラスにも居るもの、そういう人・・・。
「雪城さん」。頭良くて美人で、「薀蓄女王」とか言われてしまってた。そんな嫌味っぽい呼び名にもあまり気にしたそぶりをみ せず、いつもマイペースな彼女。でも2年になって美墨さんと仲良くなってからは少しずつイメージが変わって、皆にうちとけてきたのよね。
でもキリヤ君は、まだそんな関係の人も、いないんだろうな。昼休みはいつも硬い表情をしている。サッカーの練習の時は女の子に手を振ったりしているらしい けど・・・なんか信じられない。打ち解けようとしながらも、内心緊張してるんだろうな・・・。
ちょっと、何だか親近感。これだけ何でも出来る人でも、うまくいかない時ってあるのね。何とかしてあげたくても、私にできることと言えば、彼が図書館で少 しでも居心地よく過ごせる様、ただ黙ってカウンターに座っているだけ。彼が何か質問してきたら何でも答えるようにしよう、本を借りたいって言ったらついで に何かお話しようかしら、親切にしてあげたい・・・だけど。彼はいつも欲しい本は自分で探すし、その場で読んじゃうから本を借りることなんて結局無く て・・・いつも杞憂に終わっ ていた。

─☆─

そんな気持ちが“恋”だと自覚したのは、彼が美墨さんや雪城さんと農作業に行った話を莉奈から聞いてから。
「年下でも、いいよね〜・・・キリヤ君だったら。ね、そう思わない?聖子!」
「え!・・・え、えぇ」
いつものようにただ話をあわせただけのつもりが、顔がほてってしまう。やだ、こういう時、隠せないんだもん。ごまかせないんだもん。でもどうしてこんなに まで赤くなるの?
「え、聖子、マジ?!あんたマジでキリヤ君のこと・・・。」
(マジって・・・そんな・・・!でも・・・!)



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※漫画を描く時、鉛筆下書きだけで行き詰ると参考文としてたま にこういうのを作ります。台詞のやり取りをまず自分の言葉で書き出し、それからキャラにあった台詞まわしに修正して当てはめてく。まだ文章は荒いままです が、もうこの聖子ちゃん漫画は作りそうにないな〜ということでUP。