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<後編>
「う、うん。なんかスゴク気になるの。キリヤ君の事・・・。」
言っちゃった。大変。
「もう告るっきゃないよ!」「応援するからさ!」
通りがかった美墨さんや雪城さんまで巻き込んでもう告白せざるを得なくなって・・・。
でも、美墨さんが「聖子!」って初めて呼んでくれたの。2年で同じクラスになってから、ずっと仲良くなりたいと思ってたから・・・すごくうれしかった。
「もし駄目でも、アタシが慰めてあげるからさ!」
美墨さん・・・ううん、なぎさ、皆から突っ込まれてたけど、その明るさがうれしかった。・・・そうよね。当たって砕けろよね!
なぎさにパワーもらって、私にも何か出来そうな気がしたから、手紙を書く決心をした。
──あなたのこと、ずっと見てました。友達になってください──
・・・付き合うなんて、そんな大それた事思いもつかない。ただ、友達になりたい。心からそう思ったから。だけど・・・受け取ってももらえなかった。「よく
わからない」そう言って、はぐらかされた。宙ぶらりんになってしまった、私の気持ち。すごく苦しくて次の日は学校休みたいとまで思ったけれど、テスト期間
だから休めない。誰とも顔をあわせたくないと思って早めに学校に来たのに、志穂と莉奈が色々突っ込んでくる。
「キリヤ君がそんな人だと思わなかった〜!ちょっと幻滅〜!」
「もう一度、キリヤ君に当たってみようよ!だってだってだって・・・何か許せないよこんな
の!」
何だか2人ともちょっと怒ってる。(そっとしておいて!)・・・言えなかった。いつもの意気地のない私に逆戻りしていた。
私の煮え切らない態度などお構いなしに、2人に引っ張られて男子部の校門まで行く。目だって恥ずかしいのに・・・!
「あ、来た!」
目立たないところまで引っ張ってこられて、志穂と莉奈にまくし立てられて・・・すごく迷惑そうなキリヤ君。
「もういいよ・・・キリヤ君だって、迷惑だよ・・・。」勇気を出してそう言ってみたけど、志穂も莉奈も聞き入れてくれない。
何で私とキリヤ君のことなのに、そんなに余計なおせっかいするの?!そう言いたかったけど、志穂や莉奈が私のためにやってくれていることだし、そんな2人
に嫌われたくなかった。友達でいたかった。
「雪城さんだって、応援してくれたじゃん!」
「雪城・・・?!」
──!・・・彼の表情が明らかに変わった。志穂と莉奈は私の方を向いていて気づかない。だけど、彼の瞳がつり上がって一瞬光ったように見えた。──怖
い!!ツカツカと私に近づくと、手紙を奪い取り・・・そして吐き捨てるような言葉とともに手紙を破り捨てた。
もう、もう何もかもおしまい。もう誰とも顔をあわせたくない。おせっかいな志穂も莉奈も嫌い!でも一番嫌なのは自分!
意気地のない自分!もう、そうっとしておいて。誰も私に構わないで!涙があふれてくる。そんな私を玄関先で見かけた雪城さんが私に駆け寄り、志穂と莉奈が
事情を説明する。「もう止めて!」そう言葉にすることも出来ず・・・そしたら何故か雪城さんまでが憤慨してる。
「──私、キリヤ君と話してくる!」そういって身を翻すと男子部の方向へ行ってしまった。
莉奈や志穂はともかくどうしてあなたまでが余計なおせっかいするの?!信じられない!でもこんなこと思う自分が嫌。はっきり「やめて」と言えば良かったの
に・・・私、今、すごい嫌な子になってる。自分では何もしないくせに・・・泣きじゃくって気持ちを誤魔化してる。モヤモヤした、ドロドロした気持ちで胸が
いっぱいになる。誰かとめて!
「あれはさすがにどうかと思うよね〜。」
「雪城さんも正義感のカタマリだからさぁ〜。」
莉奈も志穂も好き勝手言って!そう感じていたらなぎさが登校して来て
「ちょっとほのか止めてくる!」
・・・!!ごめんなさい。自分でやらないで任せちゃって。でもなぎさだけが唯一の救い。ありがとう。
2人ともテストぎりぎりまで帰ってこなくて皆で心配したけど、無事間にあって・・・そしてやっぱりキリヤ君に怒られて帰ってきたらしくて・・・。雪城さん
が
「キリヤ君にも、谷口さんにも、本当にゴメンなさい。私って、人の気持ちが分からなくって・・・ホントに駄目ね・・・。」
そうつぶやくのを聞いて・・・、何だか、ホッとしたの。
─☆─
「すみませんでした。谷口先輩。ちょっと個人的なことでもイライラして、あんな酷い言い方をして・・・。でも手紙は受け取れません。ごめんなさい。僕はま
だ・・・人を好きとか、そういう気持ちはわからないんで・・・。」
そういうつもりの手紙じゃなかったと言い訳しても、彼は混乱するだけだろう。それより名前を覚えてもらっていたこと、こうやって仲直り出来たこと、それで
十分な気がした。
「こちらこそ、しつこくしてゴメンなさい。男子部まで乗り込んじゃって・・・。」
「あれは多分ほのかさんが勝手にやったことでしょう?後から考えてもそうでなきゃおかしいなと。」
意外だった。彼は彼女を「ほのかさん」と呼んだ。名前を親しげに呼べる人が・・・いたんだ。
「ほのかさんって、誰にでもあんなにおせっかいなんですか?」
「え・・・?おせっかいだなんて・・・でも、悪気はないのよ。私のためを思ってしてくれたんだし・・・。」
「例え悪気は無くても人には踏み込んで欲しくない所だってあるのに・・・。そう思いませんか?物事を理解してるんだかしてないんだか、よくわかんない人で
すよね。」
苦虫を噛み潰したような表情をしながらも、心から怒ってるわけじゃなく、むしろ彼女に構われるのがうれしいのかしら?キリヤ君の語尾が、心なしか弾んでい
るようにも聞こえて・・・。
何だか色々なモヤモヤが晴れた気がした。
そう、そう思うよね。そう思ったとしても、普通・・・なんだよね?
キリヤ君が私の気持ちを代弁してくれたようで、何だかうれしかった。
「ありがとう、キリヤ君。」
キョトンとしたキリヤ君の顔。ありがとう。あなたを好きになってよかった。なぎさとも仲良くなれたし、雪城さんのことも、ちょっと理解できそうな気がす
る。それに・・・そんなに嫌な子じゃないよね、私。同じこと、感じてくれた人もいたんだ・・・。今度からはもうちょっと自分の気持ちも、言えるようになろ
う。友達に嫌われるのを怖がってばかりいないで・・・。
「ふふ。」
つい笑ってしまうと、キリヤ君は益々不可解な顔をした。
─☆─
「・・・あ、図書委員だったんですね。谷口先輩。」
「うん、そうよ。貸し出し?」
キリヤ君が本を借りるなんて、多分初めて。
「ええ、お願いします。」
学生証を差し出される。
「あ、ちょっと待って。この本まだバーコード処理されてないみたい。古い本だとたまにあるの。今パソコンにデータ入力するから・・・。えーと、『若菜集』
『島崎藤村』・・・。」
「ああ、時間かかるならいいです。」
「うーん、じゃあ返却後に入力するから、後ろについてる貸し出しカードに名前と学年、クラスを記入お願いします。」
「はい。」
「懐かしいな・・・1年の授業でやったっけ。この作品。」
「今日授業で当てられたんですよ。韻律を楽しむためにも声に出して読めって言われて・・・。響きが良かったんでなんとなく。」
「うん。他の詩も私は好きだし・・・お薦めかも。」
「そうみたいですね。繰り返し本を読んでみたいと思ったのは初めてだ。」
めずらしい笑顔。きっと周りにも打ち解けてきたんだろう。私にも。
「林檎というよりはキャベツかな。」
妙な言葉を残して。
─☆─
そんな笑顔から一週間も経たないうちに、彼は学院から姿を消していた。『若菜集』はいつのまにか図書館に戻っていて・・・。
私はその本をデータ入力し、貸し出しをバーコード化した。いらなくなった彼の記名入りカードはなんとなく捨てられず、私がそのまま持っている。
『初恋』の、記念として・・・。
END
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※本編に出てくる実際の台詞回しは面倒なのでニュアンスだけ伝
わるようカット。そんなこんなで漫画作りの裏話。しかし、我ながらむなしいことやってるよなぁ・・・なんて。こういう今更感ひしひしの話をUPしてどうす
るんでしょうねぇ私。