見えない未来でも
『閉ざされた夜(お蔵入り漫画)』を作れと言われた時、あの2人の性格で、
しかも中学生という設定じゃどうしても性と結びつけて考えられなかったんですよね。
で、大学生なら・・・と思って考えたのがこのストーリー。そんなわけで初めての夜&朝☆1
「もしもし、おばあちゃま?連絡が遅くなってごめんなさい。泥酔しちゃったコをほっとけないんだけど・・・タクシーに乗車拒否されて困っちゃってる
の。電車でそのコの家まで送ってから、泊まる場所を考えるから。他にもお友達いるから誰か泊めてくれると思う。今から帰るよりそのほうが安全だし。・・・
うん、明日も大学。そのまま行ってから帰るわね。」
携帯を切って一息。ちょっと胸がドキドキする。嘘をついたわけじゃないのに。
さて・・・。
「キリヤ君!しっかり歩いて!同じ方向の子は女の子しかいないんだから、さすがに担げないわよ!!」
「・・・大丈夫ですよ、ほのかさん。あなたが心配しなくても一人で帰れ・・・。」
「あーん、反対方向に歩いていかないでー!!」
カップルのように私の肩に手をかけ、首をうなだれるキリヤ君。
皆クスクス笑ってる。わかってるんだ。わかってて助けてくれない。
今日キリヤ君がひどく酔っ払ったのは多分、私のせいだから。
「おい、ほのか先輩にあんまり迷惑かけんなよ。」・・・何とか駅まで着いたら、後輩の一人がそう言った。
「え!私一人で送ってくの?!」
「そいつだって一応男だから、このまま駅に置いてっても大して問題ないっすよ。でもどうしてもほのか先輩送りたいんでしょ?」
「だって・・・ほっとけないじゃない!」
「あれー?他の男はほっとくくせに。」
「え、そ・・・そうだっけ?」
「眼中にないというか・・・だってほのか先輩、オレの名前とか憶えてる?」
「う、うーん。えーっと。ごめんなさい・・・。」
「・・・これだから。いい加減認めてくださいって。あーもう、お幸せに。」
・・・何なのよ。皆冷やかしに駅まで付いて来ただけ?2次会行っちゃうって言うし。
もう、いいわよ!
─☆─
今日は研究発表後の親睦会で、お店に入ったのが3時間ほど前。
普通の飲み会だと思ったのに、今考えると仕組まれていたみたいな気もする。
キリヤ君と向かい合わせの席。それは別にいいんだけど。
盛り上がった頃、隣の女の子が小声で話しかけてきた。
「ほのか先輩とキリヤ君って、ぶっちゃけどういう関係なんですか?」
「え!えーと、中学と高校が一緒で・・・大学も学科が一緒だと・・・“腐れ縁”とでも言うのかしら?」
「またぁ。元ベローネの人に聞いたんですよ。中学の時から2人で学校で派手にケンカしてたり、待ち合わせして一緒に帰って・・・。学校イチの美形カップル
で頭も良くてとにかく目立ってたって。」
「カ、カップル?!」
向こうで聞き耳を立てていたらしいキリヤ君がむせる。
「今だってあんまり変わらないじゃないですか。なのに2人を一人ずつ追求しても“付き合ってない”て言うし・・・。」
・・・言い訳の言葉が、見つからない。
だって。
“恋人”になんて・・・なれないじゃない。
私はキリヤ君が“人間じゃない”ということを知ってる。
「いずれは帰らなきゃならない」
自分に言い聞かせるように何度も彼は口にした。今この世界に身を置いてるのは、単に勉強。
自分の世界を立て直す為の参考として。
そんな使命感を感じている彼に、重荷になるような言葉は口に出来なかった。
でも・・・わかってる。
そんなこと、人に言われなくても。
当たり前のように隣に居て、付き合ってるのとどこが違うの?
お互い告白してないだけで。
私の態度がいけないの?
彼と居る時に感じる安らぎと、一方で浮き足立つ気持ちの意味は敢えて考えないようにしていた。
この世界に居る間だけでも、“良い友達”としてそばに居たいだけなのに・・・。
テーブルのこっちと、むこうで・・・空気が、揺れる。
「ねえ、ほのか先輩?」
「あ、ご、ごめんね。でも本当に付き合ってないのよ。今私は研究が大事だし、まだ恋愛には興味ないかな?嫁き遅れそうになったらお見合い考えるかもしれないけれど、一生独身もいいかも・・・なんて。」
「もったいないですよ!先輩がフリーだってハッキリしたら、告白したい男が何人いると思ってるんですかー?!キリヤ君もフリーなら、私だって彼に告白しちゃいますよ!いつも2人一緒だから割り込みにくいんですけど・・・。」
「あなた・・・キリヤ君のこと、好きなの?」
「うーんまあちょっと・・・過去形ですけどね。だってキリヤ君はほのか先輩しか見てないって感じで。でもじゃあ、キリヤ君はとっくに振られてたってことな
んですか?」
「・・・私、キリヤ君に告白なんてされたことないから振るも振らないも・・・誤解よ。」
「・・・え!だって・・・キリヤ君他の人断わる時に“ほのか先輩が好きだから”ってハッキリそう言ったって・・・。」
・・・初耳だった。
向こうでキリヤ君の顔が赤らむのも多分お酒のせいじゃない。
急ピッチにコップを開けたかと思うと隣の人に大声で話しかけてる。キリヤ君らしくない。
・・・ずるいわよ、こんなの。今こんな形で気持ちを聞かされても・・・。
ううん、わかっていたもうずっと前から。
命がけで、私をかばってくれた、その気持ち。
私のことを思うからこそ今まで・・・?でもそれなら、完全に嘘付いて欲しかった。
どうしよう・・・。うれしい・・・。うれしい・・・の?
“友達なんかじゃない!”
かつての彼の言葉を思い出す。
そう、友達なんかじゃなかった。後から感じた、お互いの気持ち。
「やだ!ほのか先輩、ごめんなさい!」
「え・・・?」
「先輩を泣かせるつもりは・・・。」
「え、やだ、どうしたんだろう?わたしお酒で泣き上戸だったかしら?・・・や、やだ。」
止まらない、涙。キリヤ君の嘘つき!嘘つき!いつも意地張って、何でも独りで決めて・・・。
私のこと好きなら、私の気持ちも考えてよ!!
いつだって置いてかれて、待っている私の気持ち。
遠くの席に逃げてかなり酔いが回ったらしいキリヤ君も、私の異変に気付いて戻ってきた。
「どうしたんですか、ほのかさん!・・・具合、悪いんですか?何で泣いているんですか?」
「・・・キリヤ君のせいよ。キリヤ君がいつも黙って私を置いて行くから・・・っ!嘘ばっかりで、意地っ張りで、強がりで・・・!」
「はあ?何言ってるんですか?どっちが・・・っ!守ろうとしても大人しくなんかしてないし、危ないトコ率先して突っ込んで行って!強がってるのはいつも
そっちでしょーが!」
あわや口論になりかけてキリヤ君がすまなそうな顔をする。・・・涙が止まらない。
キリヤ君が隣に回ってくる。肩を、抱かれる。そのまま頭を預ける。
皆があさっての方を見て、見てみぬフリで飲みだすのもわかって恥ずかしいけど・・・。
「お願いです。泣かないで・・・ください。この友達関係を壊したくなかったし・・・。怖いんです、何もかも。別れが辛くなるのも・・・。」
でももう、手遅れだった。
お互いの気持ちを、さらけだしてしまった。
それと同時に、辛い別れを思うだけで涙が止まらない。
気付くと目の前に彼の顔がある。きっと同じことを考えてる。
“KISSしたい”
ふぃっと顔を逸らしてキリヤ君はまた向かいの席に行く。時折じっと私の瞳を見つめつつ、その後は普通の飲み会の光景。だけど体が熱くなっていた。
─☆─
気をしっかり持たなきゃと考えつつ、キリヤ君と電車に乗りこむ。いつの間にか彼は寄りかかるというより、ちゃんと私の肩を抱いて・・・。
「キス・・・してもいい?」
まだ正気じゃないのね・・・と苦笑しかけたら。突然唇をふさがれた。
拒否できない。こんな人目につくとこなのに。
だって・・・本当はずっと待ってた。こんな時間。2人で過ごす、こんな甘い時間。
電車を降りて、しっかりした足取りで歩く。時折足を止めてキスをする。
アパートの前、ドアを開けたら、もう戻れない気がする。
そこから後は・・・。
「おはよう、ほのかさん。」
「・・・もう起きてたの?まだ朝の4時よ?」
ベッドの上でいきなり土下座?キリヤ君、蒼白で何かおかしい。
「ごめんなさい!こんなこと・・・責任取ります!というか、憶えてないなんて・・・避妊もしてないなんて・・・!・・・自分が情けない。でもっ愛して
る!!それは本当です。今はあなたが望むならこの世界で生きて行くことだって。───そう、一度はあなたのために捨てた命だったんだ。それを思い返せ
ば・・・っ!」
「本当に?そんなに私のこと・・・好き?」
「うん・・・今は・・・あの時以上に。」
昨日の夜とうってかわったぎこちないキス。
うふふ。
「責任取るような事、何も・・・されてないよ。」
「・・・え?」
「だってかなり酔ってたみたい。ベッドまで普通の足取りだったのにビックリした。キスしてバタンキュー♪」
「え・・・えーっと???あ!・・・でもキスはしたんですね。あぁ・・・。」
「今もね。」
今度は私のほうからキス。
「ほ、ほのかさんっ!」
「──ねえ、私も考えたんだけど。お互いがお互いの世界を捨てようとまで、しなくてもいいんじゃないかしら。少なくともキリヤ君は行き来できるわけで
しょ。私も時には一緒に付いていったり、場合によっては残ったり・・・。私のパパとママも、そうやって世界を飛び回っているわ。」
「でも、僕達は・・・。」
「人種が違うと色々心配・・・?でも、そんなの試したこともないのにわからないじゃない?一番初めに国際結婚した人だって、そんな風に考えたんじゃないかしら?」
「・・・前向きな意見ですね。」
「だって、こんな関係にならなきゃ話し合う機会もなかったから、考えなかったし。」
「こんな関係って・・・?」
「付き合うんでしょ?私達。だからそんな夢見たって、いいじゃない?」
「・・・ああもう、さすがですね・・・敵わないや。参りました。
そんなところもひっくるめて、大好きですよ。・・・愛してる!」
キスの雨。そのまま押し倒される。
え・・・ちょっと待って!!
「まだ・・・酔ってるのかな?自制が利かない。」
「ね、ねえ!シャワーも浴びてないの!それに避妊はどうするの?!」
ちょっとすねた顔。そんな正直な顔、初めて見る。
「・・・それもそうですね。シャワーでも浴びて待ってて!ちょっとコンビニ行ってくる!」
えー?!す、すばやいわキリヤ君。いきなり。
どっちにしてもお風呂入ってないし・・・とシャワー浴びてたら、即帰ってきてバスルームまで入ってきちゃって・・・。
エッチ。ばか。もう。
─おわり─
※キリヤくんが「ほのかさんが好き」と他の女性に言い訳したのは、高等部あたりまで「女に興味ない」とか断りまくってたら男子部で“ホモ”疑惑が浮かぶのではと、あの容姿では(笑)。・・・でもって懲りたと。もしほのかちゃんにもしバレても「人間じゃないからつきあえないとは言えないので名前を借りました」とゴマかすつもりで。でもっていざばれたらゴマかせなかった彼。・・・なんて妄想もしてみました(笑)。
絵は昔絵板で描いたものを絵ソフトで「効果」を加え修正して適当にくっつけただけです。後ろにおまけで続きます。