眩暈がするほど


─二人の初めての夜&朝☆2─


───ずっと、待たせてきたんだ。ごめん。
今までそんなふうに考えられなかった。
気づかなかったんだ───

─☆─

ただもう夢中だった。

コンビニに行った時一瞬自問自答しかけたが、
部屋で待っている彼女のことを思うともう余計なことは考えまいと。後は気持ちに従っただけだ。

カーテンを開けた時、背を向けた彼女が気になって・・・手を伸ばすと涙に触れた。
その瞬間ものすごい後悔に襲われた。やはり抱くべきじゃなかったのかと。
僕にはこの思い出だけがふさわしいと。

「やっぱり・・・今なら僕の力で1時間くらい戻せるよ。──その前の記憶を消してもいいんだ。」
「やめて。そうじゃない───ホッとしたら、気が抜けて・・・。
うれしくても涙が出るのよ。ずっとずっと、不安だったから。」
「どうして?」
「あなたにとってこの世界は仮の居場所かもしれないけど、いつも何も言わずに居 なくなっちゃうから。
“生きてるよね”って。“また会えるよね”って。でも、聞けなくて・・・。いつ帰ってくるんだろう?そう思い続けていた。最初にあなたを失った時から・・・。でも、そんな関係でもないのに迷惑かもって・・・ごめんなさ い。」
「・・・・・・。」
「私、これからも待てるから。あなたのこと信じて・・・。
だから、あっちに時々帰る時は教えてね。もう、泣かないですむから。」

“泣かないですむ・・・”その言葉を聞いた時ハッとした。
僕は、僕の知らないところで沢山傷つけて、泣かしてきたのか、彼女を。
抱いて初めて、彼女の強がりの裏の本心を知った。
もう2度と僕の世界のことで彼女に迷惑はかけまいと、
その為なら命なんか惜しくないと思って彼女を守っていたはずが・・・
逆に彼女はそんな僕をずっと見守っていてくれたんだ。

この人は・・・。

「ちゃんと言うよ・・・黙って行かない。」

言葉がもどかしい。
彼女が雰囲気をほぐそうとしてか、涙を拭いて微笑む。本当にきれいだ。何もかも。
社交辞令ならうまい言葉も浮かぶのに、何でこういう時適切な表現が出来ないんだろう。
彼女の憂いを帯びた甘い表情に思いがけず息を呑む。離したくない。

「・・・ほのかさん、授業は?」
「土曜だから、今日は2限だけよ。」
「じゃあ、サボってくれない?」
「え!でもそんな・・・!行かなかったら昨日の人達も変に思うわ。」

まじめな彼女。でも、ちょっと考えればわかることだろうに。
時々天然だよな。

「むしろそのまま登校したら、詰問されるだけだと思うよ。昨日と同じ服でさ。
何もなかったならともかく、シラを切りとおせる?」

真っ赤だ。

「あなた一人にそんな思いさせたくないから、なんなら僕一緒に行ってもいいけど。
一緒にからかわれてみる?」

この一言は効果的だったらしい。本当はそんなの僕も嫌だ。
登校をあきらめたらしい彼女。
もう一度僕の胸に頬をうずめる仕草がたまらなくつややかで。


今日はゆっくり休みながら、突っ込まれた時の対処と、ノートの調達法でも考えるか。
彼女と一緒の未来も本気で考えてみよう。僕はもうちょっと欲を持って生きてもいいのかもしれない。
大丈夫そうなら───彼女が許してくれるなら、午後もう一度くらい───なんて望みから。

(情けないと思うけど、欲しいんだから仕方ない)


─おわり─


> キリヤドツクゾーン編続くらしい・・・

※キリヤ君側から続きを書いてみました。「もう1回」は『閉ざされた夜』でも使った台詞ですが、騙す意味で使いたくなかったんですよね。頼まれて作った漫画では、私個人としては真面目な2人が中学生でそういう関係になるとは考えられなかったので追い込んだ状況を作りました。でも本当はこの話のように年頃になって自然と結ばれてほしいなぁと。